善悪の故郷(ローズ・イン・タイドランド)

category映画ネタ — S.S a.k.a fukigen @ 2007/1/30 12:31

070128a  昨年劇場で観た近年まれにみる良作ホラー、『サイレントヒル』で好演してた子役、ジョデル・フェルランドを検索にかけたことでこの映画の存在を知った。監督がテリー・ギリアムということでDVD発売への期待感が高まった。テリー監督の信用買い、ってことで、一度も観ないうちにAmazonnで予約しといた。
 結果、ここ数年で私が観た映画作品のなかで、最優秀作品賞となったのだった。DVDを手にしてからすぐに二回観た。手放しで絶賛できる作品なんてそうはないので、私のDVD所有欲を、いまはかなり満たしてくれている。
 テリー・ギリアムの前作、『ブラザーズ・グリム』からの系譜ともいえる、ファンタジー色がテイストになった作品である。けれど汲み取ってるものの深さがまるで違うのだ。メタドンの中毒発作で、主人公ローズの母がオープニング早々にして死んでしまうことから始まるこの物語、不思議な浮遊間をもちながら展開してゆくものの、その細部まで辻褄(作品の世界観のなかで)というものがキッチリと決まっているのも素晴らしい。

 母の死に対するローズと彼女の父ノアの反応も面白い。物語が進むと、この母は剥製になった父の体内でミスティーク(バービー人形のあたま)の頭をもらいそのなかに新しい脳をもらう。物語後半でローズは自分の妊娠を空想するのだけれど、生まれる子供がミスティークだといっているのも面白い。肉体は母の遺伝情報の象徴で、顔はもっとも自分が気に入っている人形の頭部、そこに新しい感性として、脳が嵌め込まれるのだ。なんだかメタフィジカル的で面白い。
 いっぽう彼女の父ノアといえば、妻の死ぬ寸前に眠っているローズを起こし、沼の不思議な力により腐らずにただ少し縮むだけだという男、その本の挿絵を彼女にみせ、忘れないうちにいっておく――

わたしたちも二千年後にこうありたいものだ。まるでただ横たわって、いまにも生き返りそうじゃないか、

というのだった。彼はヘロインを打つときに、娘のローズに、

とうさんはバケーションに出かけてくる。深い海の底だ。夢(希望)の生まれるところだ。

 というようなことを繰り返しいうのだった。私自身思うに、薬物やアルコールで得る開放感というものは、状態(環境)を保存したまま前借りするある種の死のようなものだ。ローズの両親は死の手前の段階にあって、やはり父もヘロインを摂取したまま死んでゆくこととなるのだが、彼がオープニングで予言したそのままに、剥製となって、ただ少し縮むだけで、その後も姿を残すこととなる。
 ユトランドで出会う二人の登場人物、デルとディキンズも面白い。ディキンズは車で列車に衝突したことがトラウマになっている中年の男で、全てを変えてしまった象徴であるその列車を、モンスターシャークと呼んで恐れている。彼にとっての草原は海である。ローズは彼との接触で、このユトランドをタイドランド(干潟)に置き換える。
 デルは蜜蜂に母を殺されて、また自身の右目を奪われた女性である。彼女はその若き日にローズの父ノアと愛人関係にあったらしく、死後のノアを剥製にしてしまう人物である。彼女は野生動物を剥製にする他に、自らの母もまた剥製にして保存している。ラストで不可抗力的にだが、ローズにその頭部を踏み潰されてしまうのだが、ここで面白いのは、この場面の直前に、デルがローズの友達のひとりであるグリッター(これも人形のあたまね)を踏み潰していることである。デルにとっての母の剥製も、ローズにとってのグリッターも、ともに擬人化した存在で、二人ともがその物言わぬ対象に語りかけて過ごしてきたのだ。なんだか等価交換のようで面白い。ある種の教訓を孕んでいるようだ。
 物語のなかでいちばん印象的だったのは、剥製にしたノアを挟み対話する、ローズとデルの場面だった。二人にはその瞬間、なんだか共感のようなものが刹那的に生まれるのだった。ラストを除いてローズが悲しみを訴えるのはこの場面だけなのだが、作りかけの泣き顔はしかし、デルに拒絶されてしまうのだ。この場面は、その後の会食の場面もふくめ、この物語のヘソのような役割を負っていると思う。ここでデルに受け入れられたのなら、最後のハッピーエンドはなかったのだろうから。
 映画全体を通して観ると、ちょっとしたカラクリやCGが、浮き沈みを繰り返すタイドランドの浮遊感を、上手く演出していると思う。CGといえば蛍や蟻のディティールがあまりリアルでないのも良い質感になってる。脚本は『ラスベガスをやっつけろ』のときと同じトニー・グリゾーニとの共同脚本らしいのだが、今作の出来はその比にならない。映画は非常に纏まりが良く、独創的なのに奇を衒ったようなところがまるでない。そして最後に、もちろんジョデルの演技力の素晴らしさだが、これは二回目以降の鑑賞で、脚本の理解力に驚かされるといった感じ。独り芝居みたいな場面が多いし、ともすれば独り善がりな演技(そうなったら独り善がりな映画で終わっただろう)になる危険性の高い役柄だと思う。ロサンゼルスを離れたというテリー監督とともに、今後が楽しみな女優である。

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コメント (5) »

  1. おお、これ観たかったんだけど見逃していたんすよ。
    よさそうだな…

    コメント by karuya — 2007/1/30 @ 23:28

  2. これはkaruyaさん観た方がいいよ。
    人格がいっぱい出てくるとこなんか、
    なんとなくあの連作と似てる気がするから、
    シックリくると思うよ。

    コメント by S.S (ゾンビキラー) — 2007/1/31 @ 12:46

  3. はじめまして。

    なんの予備知識もなく突然
    姉にみせられて、気持ち悪かったけれど
    最初から最後まで釘付けでした。
    こんな映画は初めてでした。

    後日、「憲法9条を世界遺産に」
    の本文にチラリと登場して、

    もう、この映画は墓場まで
    くっついてくるなと思いました。

    お人形の頭と会話するローズの声が
    いまでもアタマから離れません・・。

    コメント by 知沙 — 2009/9/6 @ 8:07

  4. 知沙さんはじめまして。

    大田光はテリー監督と仲が良いみたいですね。
    彼のこの作品に対する解釈はずいぶん私と違うなあ、
    っての覚えてるんだけど、具体的にどんなこと言ってたかは、
    もうすっかり忘れてしまいました。

    このログ書いてからけっこう経ってるんで、
    そんでDVDは手放してないし、
    そろそろ観なおしてみようかなー。

    最近ローズくらいの女の子と遊ぶ機会が多いんだけど、
    このくらいの歳の女の子って、善と悪がりんごとみかんくらいの違いみたいな感じで、おまけに元気であっけらかんとしてて、監督の言ってた子どもの強さや対応力ってホントその通だなと思いますよ。

    コメント by S.S(まだオフライン) — 2009/9/6 @ 17:54

  5. ローズ・イン・タイドランド…

    作品情報
    タイトル:ローズ・イン・タイドランド
    制作:2005年・カナダ
    監督:テリー・ギリアム
    出演:ジョデル・フェルランド、ジェフ・ブリッジス、ジェニファー・ティリ (more…)

    トラックバック by ★★むらの映画鑑賞メモ★★ — 2010/8/12 @ 14:25

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